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2020年12月7日


言語連想とスモール・ワールド・オブ・ワードの日本語版

東京大学東京カレッジのテレギナ・マリアはスモール・ワールド・オブ・ワードの日本語版のプロジェクトの始動に協力し、それについて下記のブログ記事を書きました。記事の完全版を東京カレッジのブログでご覧になってください.

コーヒーの香りがした時、あなたの中にどのようなイメージが浮かびますか? どのようなことを感じますか? それは一日のうちのどのような時間帯ですか?

コーヒーのように独特な香りから連想されるものには、強いつながりがある傾向があります。コーヒーの香りから、起床時の一連の行為、あるいは、日中の眠気覚ましなどが連想されるように、言葉としての「コーヒー」と「朝」、あるいは「コーヒー」と「休憩」が関連づけられるのです。

社会的・文化的・意味論的な知識へのアクセスを可能にする言葉の連想は、人の心の動きにアクセスし、その概念構造をモデル化するためのソースであると、100年以上もの間、考えられてきました。そのように言葉の連想を用いた初期の例は、カール・ユングやフランシス・ゴルトンといった心理学者の研究に見られます。当初、ユングは患者の潜在意識にアクセスし、それが顕在化するプロセスを分析するための手法として、言葉の連想を使用していました。

この数十年の技術の進歩により、言語連想データ収集・編成・研究の方法は、大きく変わりました。今日、世界中の研究者たちは協働して、言語ごとに言語連想分析を行い、人の心に関する様々な側面について知ることができます。この複雑な心の側面が、いわゆる「メンタルレキシコン」であり、「心的辞書」とも呼ばれています。膨大なデータ保存と分析を可能にするソフトウェアやハードウェアの出現と、オンライン上での言語連想実験へのシフトにより、今や研究者は、500万件以上の回答からなるデータセットを用いて、メンタルレキシコンの大規模モデルを構築し、その概念的構造を研究できるようになったのです。例えば、「スモール・ワールド・オブ・ワード」があります。

言語連想を分析するアプローチは、この100年で変化してきましたが、提示された刺激語を見て、真っ先に思い浮かぶ言葉を書くという、言語連想実験の基本的作業は変わりません。そのような言語連想実験は「自由連想法」として知られ、思い浮かぶ連想語を参加者が自由に答えることができるものです。こういった単純な作業により、研究者はメンタルレキシコンの多様な特徴を研究するための素材を得ることができ、記憶、言語発達、創造性や個人差についての様々な発見につながります。

そのような発見の一例が、連想語の特性に参加者の年齢が関連しているということです。これは、ポルトガル語、日本語、スペイン語といった異なる言語ごとの言語連想研究において確認されています。研究によると、幼少期から成人していく過程において、単にレキシコン(語彙)が増えるだけでなく、新たに習得される言葉の関連性によって、メンタルレキシコンが豊かになるというのです。つまり、成長するに従って、習得する言葉が増えれば、関連付けされた言葉も増えるということです。年齢層が異なる参加者の回答を見ることにより、人が一生の間で、ものごとをどのように理解し、概念化していくかという過程の進展と変化を知るツールになると考えられています。

これに限らず、より多くの観察と詳細な研究を行うためには、異なる年齢層、ジェンダー、学歴、出身地域で構成される、膨大な参加者のサンプルを研究者が得られるような十分なデータセットが欠かせません。言語連想研究「スモール・ワールド・オブ・ワード」プロジェクトの国際版では、そのようなサンプルが、英語、オランダ語、スペイン語版で、すでに収集されており、各プロジェクトには10万人以上のボランティアが参加しました。また、英語版のプロジェクトは、2019年、心理科学協会の「年間優秀論文賞」を受賞し、そのデータは2000人以上の研究者によってダウンロードされています。

今秋から、日本語版言語連想研究「スモール・ワールド・オブ・ワード」プロジェクトが始動しました。このプロジェクトでは、日本語のメンタルレキシコンの特徴について、今までとは違う観点で探っていきます。日本語の母語話者による言語連想に現れる、ジェンダー・年齢・地域に基づいた差異についての研究に併せて、日本語版「スモール・ワールド・オブ・ワード」プロジェクトでは、時間、空間、感情、人間関係、家族など、日本語のメンタルレキシコンの基本概念を、記録・研究していきます。プロジェクトでは、メンタルレキシコンの構造と個人の概念構造の両面における、文化間および言語間での比較を計画しています。長期的には、科学に裏付けされた言語習得を支援する、多言語ツールの作成を目指しています。

まずは本プロジェクトの日本語版言語連想「ゲーム」を試してみてください。5分でできます。あなた自身のことについて、何か新しい気づきがあるかもしれないし、ないかもしれませんが、一つ確かなことがあります。本研究にみなさんが参加してくださることによって、日本語のメンタルレキシコンのニュアンス、その文化特有の特徴、他の言語との共通点を理解するための一助になるということです。このプロジェクトのニュースに興味を持っていただけたら、ぜひウェブサイトやフェイスブックのアップデートをチェックしてください。

2020年11月20日


スモール・ワールド・オブ・ワード新メンバーテレギナ・マリア

スモール・ワールド・オブ・ワードの日本語版のチームへようこそ!

マリアはポストドクトラル・フェローとして東京大学東京カレッジに勤めている。 主な研究分野は認知言語学、コーパス言語学及び言語教育における定量的分析とデジタル・ヒューマニティーズ分析・発表方法の採用である。 東京カレッジポストドクトラル・フェローになる前、オックスフォード大学東洋学部日本語研究センターで日本語母語話者における時空間概念の認識と表現を中心にした研究を実施し、博士号取得。
現在、東京大学で日本語母語話者の言語連想と自然発話を通じて時間・空間・感情・人間関係等のような現代日本語と日本文化における根本的な概念の分析を行い、その概念の構造と繋がりの類型の作成を目指している。 より詳しい紹介は東京カレッジの紹介ページマリアのウェブページを参照してください。